パアンに来た理由は陸路でタイに抜けたかったからなのだが、ちょうどこの時期にタイの国王が亡くなって、タイは何があるか分からないということになっていた。
友達がわざわざ連絡してきてくれて、念のためタイには入国しない方が良いかなと判断した私たちはパアンに来た理由が減ってしまった。
しかも私はパアンについた途端、またもや39度の熱を出した。
移動の夜行バスは本当に寒いことが多い。ダウンやひざ掛け、マスクだってしているし、防備しているハズなのだが、それでも寒いしやっぱり疲れる。
ソーブラザーズで催行されているツアーに参加するはずだったが、トゥクトゥクにギュウギュウに観光客が乗って丸一日観光する体力は私にはなかった。
タイに陸路越境しないとなると、予定が変わってくるので次の国をどこにするか決めなければならないのだが、熱は引かず、一日掛かりではるばる移動してきたパアンでもひたすら横になっているしかなかった。唯一の救いは、窓の外を見ると地元の人の生活が覗けることと、遥か彼方にヅウェカビン山が見える事だった。
夜には綺麗な夕焼けが空を彩る。
ヅウェカビン山は朝は霧で頂上をかくしていることが多いが、昼頃には特徴的な姿を毎日見せてくれた。
パアンは夜になると、やたら、パーン!パーン!と爆竹みたいな音が鳴り響いていた。だからパアンっていうのかな。
夜の11時頃には毎日、野良犬の遠吠え合戦が始まる。
面白いことに30分くらい経つと、犬が泣くのを一斉に止めるのだ、きっと会話かなんかでもしているのだと思う。動物の習慣が身近にあって月と山と動物的本能が関係していて、それに爆竹みたいな音が重なると、なにやら怪しい儀式をしているような感覚になった。
また朝になるとすぐ下に見える家からあばあちゃんが出てきて歯磨きを始める。歯磨きといってもこのおばあちゃんは指で歯を磨く。
水道はなくて、桶みたいなものにいれた水を使って口をゆすいで、残った水で顔を洗う。
洗面台なんかなくて、軒先みたいなところだ。
パアンはど田舎だ。
いつもの安くて美味しいお店からムラケンがテイクアウトしてきてくれたものを食べる以外ベッドに横になっていたが、人々の営みが見えて面白い。
私の熱は3日目にして下がった。このまま何もしないでパアンを去るのはあまりにも悲しいので、この日はヅウェカビン山に行くことにした。
ヅウェカビン山とは標高725メートルの山で頂上までは2時間ほどのトレッキングだ。麓には1121体もの仏像が並んでいて、頂上には寺院もある。
宿からはトゥクトゥクで片道二人で5000K(400円)
宿から少し歩くと大通りにすぐ出るので、そこでトゥクトゥクはつかまえられる。久しぶりに外に出てみると、光が眩しかった。大きな湖があってちょうど虹がかかっていた。
ヅウェカビン山はパアンの町の端に位置している。
トゥクトゥクから見える景色はなんとも昔懐かしい感じだ。
ヅウェカビン山に着くとまず目にするのはものすごい数の仏像。
しかも一つ一つ微妙に顔つきが違う。
入口のところでお坊さんに声を掛けられと思ったら、黄色い糸を首に巻いてくれた。時間になるとマイクを通して音楽が鳴り響く。その後はこのお坊さんが多分説教かなにかを喋り始める。
すれ違う地元の人々の足取りは軽快だ。午後になると人が多くなると聞いていた私たちはけっこう早めに行ったのだが、もう下山している人がいる。
頂上まで約2時間の道のり。上へ上へと登っていくとますます分かる仏像の数の多さ。点々しているのは全部仏像だ。
途中地元の人と歩調が一緒になって、お互い言葉が通じなかったがなんとなく何度も一緒になった。その度に笑顔をくれる地元民。休むポイントも一緒。
いつのまにか別々で来た若い地元民とおじさん地元民も一緒になって話し込んでいる。
こうゆう風に分け隔てなく、知らなくても知っていても関係なく話し始めるミャンマー人はとても大らかだ。
ムラケンも倒立で休息(休めてないけど)。
病気あけのトレッキングはキツかったが、上からの眺めは素晴らしかった。
多くの巡礼者が登っていく。地元の殆どの人はちゃんと正装しているし、もっと信仰深い人は山登りから裸足だ。ヅウェカビン山は地元の人にとって聖なる山なのだ。
頂上では観光客も裸足になる。
頂上では大きなパゴダが迎えてくれる。いつものように8曜日の仏像もある。
あれ?なぜここに蟹…。遊びにきちゃった?
ナッ神が連れてきた??
山の上は上でもポッパ山とは全然雰囲気が違う。ポッパ山は私たちから見ると観光地的な要素が強く感じられたし、あまり清潔な感じがしなかったが、ヅウェカビン山は静かで聖地といった要素が強かった。
若い人でも熱心にお参りしているのを見ると、お祈りというものが日常に当たり前に組み込まれているというのはどんな感覚なのだろうかと想像した。
食べたり、シャワーを浴びたり歯磨きしたり、そうゆうことと同じようにお祈りをするということは、心を落ち着かせる良い方法なのかもしれない。
パゴダと共に見る頂上からの眺め。トンボも楽しそう。
こうゆうところには必ずいる猫。もしかしたら一番信仰深いのは猫なのかもしれない。
帰りに仏像が沢山いる庭に着いた時に、本当にここは安寧の地なのではないだろうかと思った。
歩き疲れて辿り付いたところに、こんなに大勢の仏像さんが迎えてくれるとなんだかホッとした気持ちになる。天国とか桃源郷とか行ったことはないけれど、きっとこんな感じなのかもしれないと想像した。
帰りのトゥクトゥクをつかまえるのは不可能と思った方が良い。
なぜなら入口付近にいるトゥクトゥクは全部誰かがチャーターしているもので、乗せてくれないからだ。帰りのトゥクトゥクが全くつかまえられず、途方にくれながら大通りまで歩いていったが一向に通る様子もなかった。
そこに似たような形状をした乗り物がやってきたので、トゥクトゥク来た!と手を振ると、それはトゥクトゥクではなくて地元の人が何か荷物を運んでいるものだった。
あっ、間違えたと思ったが、乗れ乗れ!と言ってくれたので乗せてもらうことにした。ヒッチハイクはする気はなかったが、ヒッチハイクした感じになった。
どうやらお米を町に運んでいる最中だったらしい。荷物と人間と一緒になって運ばれていく。みんなとても親切だった。
運転手のおじさんは歯が欠けていて笑うと可愛らしい。
途中まで乗せてくれて、降りた時にはすぐにバイクタクシーのおじさんが来てくれた。
いつもはバイクタクシーのおじちゃんとかしつこくて嫌だなあとか思ってしまうが、こんな時は救世主のように感じる。しかもナイスタイミングだよ!
3人乗りのバイク、速いし、気持ちが良い。
ミャンマーも明日で去る。
パアンの夜は相変わらずパーン、パーンと鳴り響き、23時頃には犬の遠吠え合戦で村を彩っていた。
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